認知症でも土地を売ることは可能か?

日本は超高齢化社会に入り、親を介護している状態の人も珍しくありません。中には、介護の問題だけではなく、親の財産をどのように処分するかという点において、悩みを抱えているケースも多いのではないでしょうか。こちらでは、親が認知症になるなどで判断能力が充分ではない場合に、土地などの財産をスムーズに処分する方法について解説します。

認知症になると土地を売却することも困難

親に介護が必要な状態になったため施設に入れたいと考えたとしても、そのためにはお金が必要です。ある程度サービスが充実している施設となると、数千万円ものお金を一括で支払わなければならないこともあります。そのような時、売却できるような不動産が親にあるのであれば、子供としては売却して、施設の費用を作ろうと考えるのが自然な流れでしょう。

しかし、実際には親が認知症になってしまうと、土地を売却することも一筋縄ではいかなくなります。もし、親本人が土地を売却すると、「判断能力がない」とされて、契約が無効となります。では、家族が代わって売却すれば良いかというと、それもできません。

なぜならば、本人に判断能力がないのであれば、家族に土地の売却を依頼すること自体が不可能とされるからです。

まれに認められるケースもある

認知症になってしまうと、本人であろうと家族であろうと、土地を売却することが困難になってしまいますが、たとえ認知症だからと言って、全ての不動産売却が無効とされてしまうわけではありません。まれに例外もあります。

認知症患者の不動産売却が無効となるのは、認知症患者が、法律で言うところの「意思能力の無い人」とされるからです。「意思能力の無い人」とは、日常生活における様々なことを判断する能力が充分ではない人というような意味です。

つまり、意思能力が無いから不動産売却が無効とされてしまうのであって、認知症患者であっても意思能力が認められれば、行った行為はそのまま有効となることもあります。現に、認知症患者の行った不動産売却が有効と認められた平成8年の東京地裁判決もあります。

この事例では、認知症の親が家族に相談なく不動産を売却してしまいました。相続人である息子が、これを無効とする裁判を起こしたのですが、裁判所は認知症の親の判断能力を認めて売却契約を有効としています。意思能力の有無に関して裁判所は、その人の年齢や医学的な見解、契約時の状況や契約自体の難易度などを総合的に判断するという立場をとっているようです。

実際にも、認知症と診断されても売買に必要な程度の判断能力をまだ有している人はいますし、契約時の受け答えに問題がなければ売却は可能です。また、誤解されがちな点ですが、売却者やその家族、購入者など全ての人が納得をしているのであれば、そもそも契約には何の問題も生じません。

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トラブルを防ぎつつ土地を売るにはどうすればよい?

全ての契約が無効になるわけではないとは言え、売却後に何らかのトラブルになってしまうと、家族など周囲の人は巻き込まれて大変な事態になります。また、現実的に考えると不動産の売却は、たった数日間で完結するようなものではありません。

場合によっては数年がかりになるようなケースもあるため、その間に認知症が進行することも考えられます。トラブルを予防するために、やはり何らかの対策を考えた方が良いと言えるでしょう。そのための方法として、成年後見制度というものがあります。

成年後見制度とは?

成年後見制度は、「本人」の判断能力が充分ではない場合に、親族後見人や弁護士・司法書士などが本人に代わって契約行為や財産の管理を行う制度です。「任意後見制度」と「法定後見制度」の2種類があります。「任意後見制度」は、本人が元気なうちに自ら後見人に対して依頼する制度です。

そして「法定後見制度」では、家庭裁判所が家族の意向などを考慮して後見人を選任します。成年後見人は、その制度の趣旨・目的から、本人の利益のために動くことが大前提です。

成年後見制度でできる事・できない事

成年後見制度は、判断能力が充分ではない「本人」の、財産と権利を守ることを目的としている制度です。

そのため、本人の利益になるかどうかで、後見人が代わって行うことができるかどうかが決まります。例えば、成年後見人が本人に代わってすることができない行為に、相続税の対策として行う生前贈与があります。

生前贈与は本人の財産を減らす行為に他ならないからです。仮に、本人が元気であれば同じように贈与をしていたであろうと考えられる場合であっても、認められることはありません。さらに、本人の預貯金を使って収益物件を購入するような行為も、成年後見人が代わってすることはできません。

そのお金は本人の将来のためにプールしておくべきというのが、制度の趣旨に沿った考えになるからです。ですから、成年後見制度を使えば不動産売却も問題なくできるかと言うと、本人の充分な預貯金がある場合には、認められないケースも出てきます。

成年後見人は本人の行為を何でも代わってできると思われがちですが、この点には注意が必要です。

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家族信託という方法もある

前述したように、成年後見制度では代わってすることのできる行為と、できない行為があります。また、後見人を親族に任せたいと考える人も多いかもしれませんが、この点裁判所は非常に厳しくなっています。親族が後見人になろうとしても、なかなか認められないということは覚悟しておかなければならないでしょう。

なぜならば、後見人の立場を悪用して、本人の利益とならない財産処分が行われるケースが実際にあったからです。このように「本人のために」という制度趣旨があるがゆえに、成年後見制度だけで柔軟な財産管理を行おうとすると、やや不十分な面が出てきます。

より万全な対策法をとりたい場合には、家族信託という制度も覚えておくと良いでしょう。家族信託は本人が元気なうちから、信頼のできる家族や親族を選んで財産の管理を託する信託契約です。相続や資産承継をスムーズに行っていくためのものとして、現在注目を集めています。

成年後見制度と家族信託の違い

では、成年後見制度と家族信託制度について比較してみましょう。1つ目の違いは、代わってする行為に制約があるかどうかです。成年後見制度では、本人のためになるかどうかという観点から財産処分が監督され、場合によってはその行為が制約されます。

一方の家族信託では、家族同士の信頼が基礎になっていますので、財産管理・処分行為について監督されるということはありません。相続税対策や将来に向けた投資など、柔軟で積極的な財産管理が可能になります。2つ目は、制度を利用できる時期です。

成年後見制度は、本人の判断能力が低下していなければ利用することはできません。そして、本人が死亡すれば後見制度も終了する、一代限りの制度です。家族信託は、信託契約を交わした時から即時に始める事ができます。

本人の判断能力の程度は関係ありません。そして、本人が死亡したとしても、継続して財産管理を行うことが可能です。3つ目は、費用の有無です。成年後見制度は弁護士などの専門職へ後見人を依頼するケースが一般的ですので、その者に対しての報酬を支払う必要性が生じます。

家族信託制度では、導入時に専門家のアドバイスを受けると一時的に費用が発生します。しかし、その後は家族内での財産管理ですので、別途定めている場合を除いて費用は基本的に発生しません。

このように2つの制度に違いはありますが、成年後見制度と家族信託制度は併用できるため、どちらがより優れているということはありません。土地の売却に限らず、財産管理について悩んでいる人は併用を検討してみると良いでしょう。

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